自閉スペクトラム症って何ですか?
ASDとは自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)です。
自閉スペクトラム症と言うと、映画「レインマン」など、テレビや映画で取り上げられるような、変わっているけれど、実はすごい能力を持っているような印象がありますよね。すごい能力を持っている人もいない事はないのですが、実際にはそういった人ばかりではありません。
実際に自閉スペクトラム症の子どもを見ていると、本当にそれぞれなんです。ある子どもは、つま先であるいて、顔の前で手のひらをパタパタさせていたり。ある子どもは、スーパーの駐車場で必ず同じところで駐車し ないと泣いてしまったり。ある子どもは視線を合わせなかったり、相手の表情から気持ちを察する事ができなかったり。この行動を見たら、必ず自閉スペクトラム症ということではないのです。知的な能力が非常に高い人もいます。言葉をほぼ話さない人もいます。
診断をする時は、DSM-Vと言う基準を使います。DSM-Vとは、精神障害の統計と診断のマニュアルで、現在第5版です。基準には、2つのポイントがあります。
1)社会的コミュニケーションの問題(情緒的関係がつかめないなど)
2)限定された興味や活動(反復的な運動、習慣へのこだわりなど)
この2点において3歳までに症状が出て現在も障がいを引き起こしている事で、診断されます。ざっくり言えば、「やり取りが難しく、同じことを繰り返してばかりいる」と言うことです。言い難いのですが、一生の障害と思われて良いでしょう。ちなみに日本で診断をできるのは、医師のみです(ちなみに著者は心理の専門なので、診断はしません)。医師が診断する時は、医師の所見に合わせて、言語能力のテスト、ADOSやM-CHAT等の、行動観察から行うチェック形式のテストなどを使って、診断が行われることが多いようです。
現実的に何が問題になるのかと言うと、本当にそれぞれですが、少し例を挙げておきます。まず、1)社交性の問題があると、学校で友達ができなかったり、相手の心情を察する事ができなかったり、集団から逸れた行動を取ってしまったり、学校などの集団生活において、問題が生じる事になります。また言語理解や言語表現の問題も大きく、大部分生徒で知的な遅れが出てしまうことになります。そして、2)行動パターンの問題では、本当にそれぞれでの人で症状が違うのですが、自分の好きなキャラクターのことばかり話したり、いつも通りのやり方と違うやり方をするとパニックを起こしてしまったり、などの問題が出てくる事が多いのです。
「高機能自閉症」などとよく言われますが、一般に知的な遅れのない方を「高機能」と呼ぶことが多いのです。診断基準に含まれる用語ではありません。
過去の自閉症の診断基準(DSM-IV)では以下の3つの軸(現在の2つに比べて)がありました。
1)社交性の問題(他の子供に興味を示さない、等)
2)言葉の遅れがある(同年齢の子供と比べて言葉が話せない、等)
3)行動パターンの問題(こだわりが強く意味のなさそうな行動を繰り返す、等)
この3つの軸全てを満たす場合を自閉症、言葉の遅れのほとんどない場合(軸の2つのみを満たす場合、すなわち、お話はできるけれど社交的・行動的には問題がある)をアスペルガー、自閉症ともアスペルガーとも言えない中間の場合をPDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害)と呼び、それら全てをまとめて「広汎性発達障害」と呼ばれていました。
広汎性発達障害とはPervasive Developmental Disorderの訳であり、この大枠の中に、自閉症が含まれていました(DSM-IVでは、自閉症は広汎性発達障害の一つでした)。その他にも、レット障害、小児期崩壊性障害などが含まれますが、私の専門の枠を超えますので、情報は控えさせていただきます。
上記にもあるように、現在のDSM-Vの診断基準では「自閉症スペクトラム障害(ASD: Autism Spectrum Disorder)」という言葉が使われます。突然ですが、虹って、連続して徐々に色が変わっていきますよね。スペクトラムとは、そう言う連続して徐々に変わっていくものを想像してください。これまでの診断基準では、「自閉症」「アスペルガー」というように、それぞれが別々の障害なのだという考え方だったのです。しかし、診断の基準の改定の協議では、自閉症やアスペルガーには色々な症状の人がいて、症状の度合いはそれぞれだが、本質的には同じ障害なのではないか、別々の診断名にする必要はないのではないか、という考え方に変わってきて、そのための診断基準の改訂だったのです。(レット障害、小児期崩壊性障害等は除く。)
私がこのサイトで自閉症という場合、自閉スペクトラム症(ASD)、アスペルガーやPDD-NOSも含めて指しています。というのも治療教育を考えた場合、似たような手法がそのまま当てはまる事が多いのです。
原因については、現時点では詳しくわかっていないのです。これまでに、色々な見方から研究が行われてきました。染色体等の遺伝要因の研究や、体に毒となる水銀などの重金属などの影響、アレルギー、消化器系の障害から来る影響など、様々な環境要因についても研究されています。ただし、今のところはっきりとした要因はつかめていません。症状が本当に様々なことからも、一つの障害と考えるよりも、それぞれ要因が違うとも言われています。色々な条件が合わせって起こっているのかとも言われています。
ただし、一昔前にあったような、「冷蔵庫のような冷たいお母さん」が原因で、子どもが心を閉ざしてしまったというような説は捨てた方が良いでしょう。お母さんの接し方やしつけが原因でなってしまうような障害というよりは、もっと先天的な要素が強いものと考えられて良いでしょう。
「一生の障がい」だからと言って、「質の高い人生が送れない」ということではないのです。今時、社交性に問題のある人なんて、ざらにいると思いませんか?自閉スペクトラム症診断の行動観察の検査などを行うと、私でも、他の皆様でも、ある程度自閉の傾向はでます。もちろんその傾向が強い人に診断が出る訳ですが、大学の先生なんかでも、「社交性がなくて、行動パターンも逸脱している」というような人って、いますよね。社会的に成功できないと言う訳ではないのです。障がいがあっ ても、幸せな人生を送っている人は、世の中にたくさんおられます。想像していたような人生ではないかもしれません。
ある自閉スペクトラム症児を持つお母さん から聞いた話を紹介します。「フランスに旅行に行くつもりで、飛行機に乗ったら、実はオランダに間違えて連れて行かれてしまった。最初はフランスに行けなかった事がショックで、凱旋門がない、エッフェル塔もない、フランス料理もない、と泣いていた。ただ、時間が経ってくると、チューリップがきれいだよね、 風車もあるよね、とオランダにいる時間を楽しむ事ができた。障がい児を持つ親って、この話にあるようなもので、定型発達児が通うような普通の学校に通って、大学 に行って、良いところに就職するといった、普通に想像するような子どもの育ち方の楽しみはないかもしれないけれど、実は定型発達児には経験できない、いろんな楽 しみもあるのです。もちろん心配はつきないけれど、どこの親が心配しなくてすむというのでしょう。」
※このコラムは、弊社最高臨床責任者の竹島より許可を得て、下記URL先のサイトから転載しております。